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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)7551号 判決

原告

平石昭俊

被告

南明茂

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用な原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、連帯して、六三〇〇万円及びこれに対する平成元年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機による交通整理の行われていない交差点において、原告運転の自動二輪車と被告今居照幸(以下「被告今居」という。)所有、被告南明茂(以下「被告南明」という。)運転の普通貨物自動車が出会いがしらに衝突し、原告が頭部外傷等の傷害を負った事故につき、原告が被告南明に対しては民法七〇九条に基づき、被告今居に対しては自賠法三条、民法七一五条に基づきそれぞれ損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実等(証拠により認定する場合には、証拠を示す。)

(一)  事故 (以下「本件事故」という。)の発生

日時 平成元年一一月四日午前七時四五分ころ

場所 大阪府四條畷市岡山一丁目七-一九先交差点(以下「本件交差点」という。)

車両一 自動二輪車(四条畷市い二五四一(甲一)。以下、「原告車両」という。)

運転者 原告

車両二 普通貨物自動車(大阪四六り九四七〇(甲一)。以下、「被告車両」という。)

運転者 被告南明

所有者 被告今居

事故態様 原告車両と被告車両が、信号機による交通整理の行われていない交差点において、出合頭に衝突した。

受傷 原告は、本件事故により、頭部外傷Ⅲ型、顔面打挫創、顔面異物混入、右眼球出血、意識障害、右頬骨骨折の傷害を負った(甲二)。

(二)  当事者等

被告南明は、本件事故当時、被告今居の従業員であった。本件事故は、被告南明による被告今居の業務執行中に発生したものである。

(三)  入院経過

平成元年一一月四日から同月六日まで、畷生会脳神経外科病院に入院(甲八〇)。

平成元年一一月六日から平成二年一月二七日 (甲八二)及び同年四月一〇日から同年六月八日まで(甲八五)、関西医科大学附属病院に入院。

(四)  受取金

ⅰ 労災給付

療養給付 五四六万三二〇五円

休業給付 六六八万六七三六円

障害年金 一八三二万六二六六円

ⅱ 自賠責保険 一六三七万円

ⅲ その他、被告らからの支払

治療費名目 五万四七九〇円

原告に対する仮払い 三三〇万円

二  争点

本件の争点は、〈1〉本件事故態様及び過失相殺、〈2〉後遺障害の程度、〈3〉損害額である。

(一)  本件事故態様及び過失相殺(争点〈1〉)について

(原告の主張)

本件事故について、被告南明には、制限速度を大きく超過する高速度で進行した過失、交差点の手前で徐行しなかった過失、現場の交差点付近の前方・左右を注視し左右道路の安全を確認し左側から進入してくる原告を事前に容易に発見できるのにその発見を怠った過失、安全運転義務を怠り原告への衝突を避けなかった過失がある。

被告南明が通行していた道路は商店街道路であり、人や車の通行が多く、また本件交差点の左右の見通しが困難であったから、一時停止又は徐行して左右道路の交通の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、右方道路に気を取られ、左方道路の安全を確認することなく交差点に進入した過失により本件事故を起こしたものであるから、被告には重大な過失がある。また、原告は制限速度時速二〇kmの道路を四〇kmの高速で走行したものである。さらに、本件道路の形状からして、実質的に被告側に広路優先権があるとはいえない。一方、原告は本件交差点手前で一時停止をしたものであり、かつヘルメットを着用していた。したがって、本件において過失相殺されるべきではない。

(被告らの主張)

本件交差点は、信号機による交通整理のなされていない交差点であるが、被告南明側の道路が広路であり、かつ、原告側道路に一時停止の規制があるものであるから、被告側道路の優先性は明らかである。また、本件交差点は見通しが悪いのであるから、原告は一時停止した上、通常の場合以上に慎重に安全確認をすべき注意義務があった。それにもかかわらず、原告は一時停止をせずに漫然進入したものである。しかも、原告は本件事故当時ヘルメットを着用しておらず、それが損害の拡大に寄与している。一方、被告車両の速度は、時速二五kmであったが、仮に、被告南明が制限速度の時速二〇kmで走行していたとしても、原告車両が本件交差点に進入した態様からすれば、本件衝突は回避できなかったものである。したがって、損害の公平な分担から少なくとも原告に七五パーセントの過失相殺がなされるべきである。

(二)  後遺障害(争点〈2〉)について

(原告の主張)

原告には、不等像症を伴う重大な視力障害があり、その後遺障害は、裸眼視力を基準に判定されるべきであるから、原告の視力障害は後遺障害等級二級二号に該当する。これと以下の障害を併合して、原告の後遺障害は一級に該当する。

ⅰ そしゃく機能障害 六級二号

ⅱ 歯牙欠損障害 一三級四号

ⅲ 右顔面知覚障害 一四級一〇号

ⅳ 頸部・右肩関節の障害 一二級一二号

ⅴ 右股関節の障害 一四級一〇号

ⅵ めまい等平衡機能障害 一四級一〇号

(三)  損害額(争点〈3〉)について

(原告の主張)

ⅰ 入院付添費 六五万二五〇〇円

原告入院中、近親者が付き添い、入院期間一四五日につき、一日四五〇〇円を要した。

(計算式)

四五〇〇円×一四五日=六五万二五〇〇円

ⅱ 入院雑費 一八万八五〇〇円

原告の入院中、入院期間一四五日につき、入院雑費日額一三〇〇円を要した。

(計算式)

一三〇〇円×一四五日=一八万八五〇〇円

ⅲ 通院交通費 一七万四八〇〇円

ⅳ 休業損害 二四四八万八四九二円

原告の事故前三ヶ月の収入は一三〇万六五二二円であり、一ヶ月平均収入は、四三万五五〇七円であるから、一日平均収入は、一万四五一六円である。

休業期間は、事故日から症状固定日 (平成六年七月二六日)までのうち一六八七日であるから、休業損害は、上記金額のとおりとなる。

(計算式)

一万四五一六円×一六八七日=二四四八万八四九二円

ⅴ 逸失利益 八七一二万三五〇九円

原告は、症状固定時に五〇歳であり、五〇歳の男子労働者平均賃金は、年額七二一万四六〇〇円である。原告は、六七歳まで、一七年間(新ホフマン係数一二・〇七六)就労可能であった。また、原告の後遺障害は、後遺障害等級一級であるから、労働能力喪失率は、一〇〇パーセントである。

(計算式)

七二一万四六〇〇円×一二・〇七六=八七一二万三五〇九円(一円未満切捨て)

ⅵ 入通院慰謝料 六〇〇万円

ⅶ 後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円

ⅷ 自動二輪車破損物損代 一六万九二〇九円

ⅸ 弁護士費用 三〇〇万円

(被告らの主張)

ⅰ 休業損害

原告の治療状況及び後遺障害から、症状固定時期まで一〇〇%の休業の必要性があったとするのは不当であり、最初の一〇ヶ月が一〇〇%、次の一〇ヶ月が八〇%、残りは五〇%として逓減的に喪失率を考えるべきである。

ⅱ 逸失利益

原告の後遺障害のうち、労働能力に影響を与えるのは、眼の視力障害であり、八級相当であるから、喪失率はせいぜい四五%を限度とするものである。

第三争点に対する判断

一  事故態様及び過失相殺(争点〈1〉)について

(一)  証拠(甲一、九六ないし一〇五、一二四、一二五、一三八、一四〇、一四一、一四六、一四七、検甲三ないし四七、乙一ないし三、原告本人、被告南明)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場交差点は、東西道路と南北道路の交差する信号機による交通整理の行われていない交差点である。

南北道路の道幅は、本件交差点の南側が三・四m、北側が四mである。また、本件交差点の南側入口付近には、一時停止表示とともに、一時停止線が存在した。東西道路の道幅は、本件交差点の東側が約五・三m、西側が約五・八mである。また、東西道路の制限速度は時速二〇kmであった。また、同交差点の四隅の建物により、交差点の見通しは悪かった。

被告南明は、本件事故当時、東西道路を東から西に時速約三〇kmで走行し、本件交差点から東方約一五mの地点で、本件交差点南西角にあるクロスミラーで、南北道路の北側道路の状況を確認しつつ、そのままの速度で本件交差点に進入しようとしたが、その左前方約四・四mの地点(本件交差点南側入口付近)に原告車両を認めたため、右にハンドルを切るとともに急制動の措置をとった。

一方、原告は、南北道路を南から北に、時速約二〇から三〇km程度で走行していたが、本件交差点手前で速度を下げ、時速約一五km程度で本件交差点に進入したが、左方より本件交差点に進入した被告車両には衝突直前まで気づくことなく、被告車両左前部と原告車両前部が衝突し、原告車両は約五m西方にはねとばされ、原告自身は約七・五m西方にはね飛ばされて転倒した。また、本件交差点には、被告車両のスリップ痕四・二mが残った。

これに対し、原告は、一時停止し、左右確認できる程度の場所に出て交差点の左右を確認した後に交差点に進入した旨供述するが、左右の確認をすれば、容易に被告車両の進行を確認できたはずであり、本件事故を容易に回避していたはずであるから、この部分についての原告の供述は信用できない。

また、被告らは、本件事故当時、原告がヘルメットを着用していなかったと主張するが、それを認めるに足りる証拠はない。

(二)  以上の事実からすれば、本件交差点は、明らかに東西道路が南北道路に優先する道路といえるのであるから、原告は、本件交差点に進入するに際して、左右の安全を確認した上、東西道路を進行する車両の妨げとならないように注意すべき義務があったというべきであるにもかかわらず、漫然と前記認定の速度で本件交差点に進入したのであるから、原告には重大な過失がある。

一方、被告南明としても、自車の走行する道路が優先する道路であるとはいえ、本件交差点が見通しの悪い交差点であるから、本件交差点に進入するに際し、安全な速度で進行し、左右の安全を確認すべき義務があったというべきであるにもかかわらず、被告南明は左方の安全確認を怠り、漫然と制限速度を超えた前記認定の速度で本件交差点に進入したのであるから、被告南明にも安全確認義務等の過失が認められる。

以上、原告及び被告南明の過失を比較すれば、原告の過失割合を六〇%、被告南明の過失割合を四〇%とするのが相当である。

二  後遺障害(争点〈2〉)について

(一)  証拠(甲二ないし三〇、三二ないし九五、一〇三、一〇四、一〇六ないし一二一、一二二の一ないし三、甲一二三、一二四、一二六ないし一二八、一三五ないし一三七、一四四、一四五、検甲一、二、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ⅰ 原告は、本件事故後、救急車で畷生会脳神経外科病院に搬入され、頭部外傷Ⅲ型、顔面打撲挫創、顔面異物混入、右眼球出血、意識障害、右頬骨骨折、鼻出血と診断された。

そのまま、畷生会脳神経外科病院に入院したが、平成元年一一月六日に、関西医科大学附属病院に転院し、頭部外傷Ⅱ型、胸腹部打撲症、顔面骨骨折等との診断を受け、平成二年一月二七日まで入院した。その間、平成元年一一月六日強角膜結合術、同月二〇日硝子体手術を受けた。また、同年一二月一四日に関西医科大学病院(脳神経外科)において、観血的多発顔面骨骨折整復術を施行した。

右頬骨骨折及び下顎骨折については、平成三年三月九日、同病院において、咀嚼機能不全(かゆ食又はこれに準じる程度の食事に制限されている。)及び開口障害(開口三・一cm)があり、同日に症状固定したものと診断された。さらに、平成七年二月三日、大阪歯科大学附属病院において、頬骨骨折、下顎頸部骨折による開口障害として、開口量が三五mm、歯牙崩壊、脱臼による咀嚼障害があるものと診断された。

ⅱ 前記退院後も、平成二年四月一〇日に右目硝子体手術後シリコンオイル抜去目的にて関西医科大学附属病院に再入院し、同月二〇日にシリコンオイル抜去を施行した。同年五月八日に再剥離したため、同月九日に右目ガス注入施行し、同年六月八日に退院した。

視力障害については、その後、平成三年九月七日の同病院における診断によれば、左目視力〇・〇一(矯正視力一・〇)、右目視力〇・〇一(右目無水晶体のため調節力なし)であり、同日症状が固定とされた。なお、大阪大学医学部附属病院眼科において、平成九年一二月一一日、不等像症と診断され、平成一〇年四月二三日における原告の視力は、右目視力〇・〇一(矯正視力〇・六)、左目視力〇・〇一(矯正一・〇)であった。

ⅲ 前記入院と併行して、原告は西岡歯科医院に平成二年四月四日から同年八月二八日まで通院し、上顎前歯四本(左右一、二)が事故により喪失した歯牙と診断され、下顎の二歯(四、五)について、既存障害と診断された。

なお、原告は、平成三年三月六日、大阪歯科大学附属病院に通院し、右上顎二歯(六、七)が本件事故により欠損していたものと診断されているが、西岡病院における負傷後の措置からすれば、上記二歯は、本件事故とは関係のない欠損と認められる。

ⅳ さらに、原告は、平成二年二月五日に、頸部痛を訴え、畷生会脳神経外科病院に通院し、その後も、平成二年九月三日から平成六年七月二六日まで継続的に同病院に通院した。

その間、平成三年一二月三〇日の同病院の診断によれば、原告には頂部圧痛等があり、以下のとおりの症状があった。

頸椎部

前屈

三〇度

後屈

三〇度

右屈

三〇度

左屈

二五度

右回旋

二五度

左回旋

三〇度

屈曲

右一八〇度

(自動一八〇度)

左一二〇度

(自動一一五度)

外転

右一八〇度

(自動一八〇度)

左一一〇度

(自動一〇五度)

伸展

右四五度

(自動三五度)

左四〇度

(自動三〇度)

屈曲

右一〇〇度

(自動九五度)

左一二〇度

(自動一二〇度)

伸展

右一五度

(自動一五度)

左二〇度

(自動二〇度)

外転

右三〇度

(自動三〇度)

左四五度

(自動四五度)

徒手筋力テスト(MMT)

右股膝周囲筋 四

左肩外転、伸筋 四

なお、平成六年七月二六日の同病院の診断によれば、原告には、項部痛、右挙上障害、右前腕部痛、右肩関節部痛、めまい、手のシビレ感を訴え、MMT右上肢(肩から手指)四程度、左上肢全体的に四程度、握力右二〇kg、左二八kg、頸椎の運動制限を認め、同日に症状を固定した旨の記載がある。

ⅴ 原告は、平成七年五月二六日、併合七級の労災保険支給決定処分を受け、平成九年一月三一日、併合四級の労災保険支給決定処分を受けた。

また、原告は、平成九年七月、自算会により併合四級の認定を受けた。

(二)  以上の事実からすれば、原告は、本件事故により以下の後遺障害を残したことが認められる。

ⅰ 視力障害 八級一号

上記の原告の視力からすれば、右眼について、「一眼の視力が〇・〇二以下になったもの」 として、後遺障害等級八級一号に相当する後遺障害が残ったものと認められる。確かに、原告の右眼についても、矯正視力〇・六という高い矯正視力がある旨の診断もなされているが、右眼を矯正をした場合には、それに伴って不等像症等が生じ、両眼視が困難であることが認められるから、右眼については矯正前の裸眼視力を基準に判断すべきであり、上記のとおりの等級を認めるのが相当である。

これに対して、原告は、原告の視力障害について不等像症が認められるから、原告の視力は左眼についても裸眼視力を前提とすべきであり、左右とも裸眼視力を前提とすれば、原告の視力障害は、後遺障害等級二級二号に該当する旨主張する。しかし、原告の左目の矯正視力は、一・〇であり、左目の矯正視力につき特段の障害は認められないのであるから、原告の視力障害が八級一号(一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になったもの)を越え、七級一号(一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になったもの)に至るものと評価することはできない。

ⅱ 咀嚼機能障害 六級二号

上記の原告の症状からすれば、原告には「咀嚼機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害等級六級二号に相当する後遺障害が残ったものと認められる。

ⅲ 歯牙損傷 一三級四号

上記の原告の症状からすれば、原告には「五歯以上に対し歯科補てつを加えたもの」 として後遺障害等級一三級四号に相当する後遺障害が本件事故により残ったものと認められる。

ⅳ 神経系統の障害 一二級一二号

前記認定のとおり、原告には、項部痛、右挙上障害、右前腕部痛、右肩関節部痛、めまい、手のシビレ感などの症状が損するので、原告のこの点の後遺障害は、局部に頑固な神経症状を残すものとして、一二級一二号に該当するものと認められる。

なお、畷生会脳神経外科病院における平成三年一二月三〇日の後遺障害診断書には、頸椎の運動制限を示す可動範囲についての記載があるが、それを基礎づける器質的な所見がないことからすれば、原告の症状は疼痛のために運動障害を残すものとして、局部の神経症状として後遺障害を評価するのが相当である。肩及び股の運動制限についても、原告の症状経過、自覚症状及び他覚所見からすれば、局部の神経症状として後遺障害を評価するのが相当である。

ⅴ まとめ

以上により、原告に残った後遺障害等級は併合して四級であり、上記認定の症状経過からすれば、平成三年一二月三一日に症状固定したものと認めるのが相当である。

三  損害額

(一)  治療費・診断書料 五五一万七九九五円

証拠(乙五)及び弁論の全趣旨からすれば、労災の療養補償給付として、五四六万三二〇五円が支払われていることが認められ、また、被告から治療費名目で五万四七九〇円が支払われているから、上記金額を本件事故と相当因果関係ある治療費・診断書料と認めるのが相当である。

(二)  入院付添費 六五万二五〇〇円

原告入院中、近親者が付き添い、入院期間一四五日につき、一日四五〇〇円を要したことが認められる。

(三)  入院雑費 一八万八五〇〇円

原告の入院中、入院期間一四五日につき、入院雑費日額一三〇〇円を要した。

(四)  通院交通費 五万円

原告の通院経過、症状等を考慮し、原告主張の通院交通費のうち、五万円を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(五)  休業損害 一一二六万八三〇四円

原告の事故前三ヶ月の収入は一三〇万六五二二円であり、一年の平均収入は、五二二万六〇八八円であるものと認められる(弁論の全趣旨)。

事故日から症状固定日(平成三年一二月三〇日)までの日数は七八七日であるから、原告の休業損害は、以下の計算式のとおりとなる。

(計算式)

5,226,088円×787日÷365日=11,268,304円(1円未満切捨て)

(六)  逸失利益 四九八五万二九五九円

原告の事故日における年齢は、四五歳であり、六七歳までの二二年間(新ホフマン係数一四・五八〇)就労可能であったといえる。(ただし、事故日から症状固定日までの期間については、二年間として逸失利益の計算から控除する。)

原告の後遺障害は、前記認定の視力障害及び神経系統の障害を併合すれば、後遺障害等級併合七級相当であり、以上の後遺障害については原告の労働能力に影響を与えているものといえる。また、咀嚼機能障害等についても、それが労働意欲等に与える影響も軽視できない。以上の原告の後遺障害を総合考慮すれば、本件事故による労働能力喪失率を七五%と認めるのが相当である。

したがって、原告の逸失利益は、以下の計算式のとおりとなる。

(計算式)

5,226,088円×0.75×(14.580-1.861)=49,852,959円(1円未満切捨て)

(七)  入通院慰謝料 二八〇万円

原告の入通院状況を考慮すれば、原告の入通院慰謝料として上記金額を認めるのが相当である。

(八)  後遺障害慰謝料 一三五〇万円

原告の後遺障害の内容等を考慮すれば、原告の後遺障害慰謝料として上記金額を認めるのが相当である。

(九)  物損 一六万九二〇九円

証拠(甲一四二、一四三)によれば、本件事故により原告の被った物損は、一六万九二〇九円と認められる。

(一〇)  小計

以上からすれば、積極損害合計は、六四〇万八九九五円である。また、消極損害は、六一一二万一二六三円である。慰謝料合計は、一六三〇万円である。物損は一六万九二〇九円である。

(一一)  過失相殺・損益相殺

前述のとおり、本件事故につき、六〇パーセントの割合で、過失相殺すべきであるところ、過失相殺後の積極損害は、二五六万三五九八円であり、労災療養補償給付五四六万三二〇五円により全額てん補されている。

過失相殺後の消極損害は、二四四四万八五〇五円であり、労災休業給付六六八万六七三六円及び労災障害年金既払額一八三二万六二六六円により全額てん補されている。

過失相殺後の慰謝料合計額は六五二万円であり、自賠責保険金合計一六三七万円によって全額てん補されている。

さらに、過失相殺後の物損は、六万七六八三円(一円未満切捨て)であり、被告らからの支払により全額てん補されている。

以上により、原告の損害は、全額てん補されている。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦 山口浩司 下馬場直志)

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